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2017年7月20日木曜日

奈良博「源信」展

奈良国立博物館で開催中の「源信」展を観てきました。
奈良・當麻寺の近くで生まれ、比叡山で修行を積んだ平安時代の僧侶「恵心僧都源信えしんそうずげんしん」(942~1017)の1000年忌特別展。
源信は、死後阿弥陀如来の来迎を受けて極楽浄土へ生まれることを願う浄土信仰を広めた僧として知られ、『往生要集』で、源信が示した具体的な死後の世界のイメージは、後世へ多大な影響を及ぼしたと言われています。
奈良博新館入口には、国宝「六道絵」のうち「阿鼻地獄」の大きなパネルが。その真向かいの小さな池には蓮の花が楚々と咲いていて、入館前にも「これぞ地獄・これぞ極楽」を体感しているような・・・
さぁ、それでは「地獄・極楽への扉」を開いて中に入りましょう!
展示室「第1章」の源信誕生についてのコーナーで・・・余談ですが、ブログで毎年「7月のお出かけ情報」を書く時に「7/10 阿日寺恵心忌大法要 地獄絵図特別公開」という情報に接していたことがここで繋がり
 
また恵心僧都源信像を拝見して、急に身近に感じる方となりました。(お顔の表情が何ともほのぼのとしているような・・・)

「第2章」では源信が記した「往生要集」の写しが出陳↑。
(画像は 奈良博の公式ツイッターより拝借)
往生要集とは、日本の浄土信仰の画期をなした源信による念仏解説書で、寛和元年(985)に完成。地獄や極楽の様相を活写し、阿弥陀仏の極楽浄土を讃え、念仏の方法を細かに解説しています。
その往生要集の影響のもと、六道絵や阿弥陀来迎図といった地獄や極楽往生の様子を生き生きと描いた名品が数多く生まれ、
「第3章」では、これぞ地獄の世界。
「第4章」では来迎と極楽の風景が紹介されています。

では、印象に残った出陳品などを・・・
(今回は図録を購入していないのでパンフレットから写真を掲載しています。)
この展覧会では、国宝「六道絵」全15幅が一同に展示されていること。
これはもう、何と言っても圧巻でした。
(15幅すべてが揃うのは前期展示~8/6期間のみ)
迷いの世界は、①天道、②人道、③阿修羅道、④畜生道、⑤餓鬼道、⑥地獄道の六つの世界に分けられていて、その六つの世界を六道といい、生前の行いによって、六道のどこに生まれるか、それとも極楽往生するかが決まるのだそうです。
奈良博の公式ツイッターに展示品の写真と説明が詳しく載っていますので、そちらをご覧頂くとして、そこからの引用ですが、地獄には色々な階層があり、一番上層にある「等活地獄」(上の写真の左上)は殺生を犯した者が墜ちる地獄だといいます。
「黒縄地獄」(上の写真の右下)は食べ物を奪った者が墜ちる地獄で、罪人は墨縄で線を引かれて切り刻まれるなどの苦しみを受けます。
国宝「地獄草紙」(前期は東博より)
上の写真↑の国宝「地獄草紙」は後期(8/8~)の奈良博のもの。

貴重な絵画が一堂に出陳しているのですが、真剣に見ていると段々と地獄の苦しみを味わうような気分になり・・・
「第4章」の展示室で極楽の風景に接した時は、正直ほっとしました。
まず、京都・即成院の「二十五菩薩坐像」三体がお出迎え。
本当にほーっとする菩薩様で「救われた〜」という気持ちになります。
平等院の「雲中供養菩薩像」↑もいらっしゃいましたよ。

こちらは後期(8/22~9/3)展示の
幅4メートルを超える壮大な「阿弥陀聖衆来迎図」↑↓。
こちらは~7/30展示の知恩院「阿弥陀聖衆来迎図」↓
阿弥陀聖衆が山麓を滑り降りるようにスピード感を持って来迎する様子から「早来迎」の名で親しまれています。
(名画中の名画だと思いました。もちろん国宝)

今回の展覧会では展示替えがすごく多いのですね。
源信の故郷、当麻の「當麻寺縁起」下巻↑の最後には、源信が創始したと伝わる迎講むかえこうの場面も登場します。(展示期間〜8/6)

その他に、當麻寺の「当麻曼荼羅 貞享本」(〜8/6)も圧巻でした!
当麻曼荼羅の下段には、生前の行ないによって来迎往生の仕方が違うらしく、9つの等級に別れる九品往生が描かれているのが面白いです。
例えば、一番下の等級では、魂を運ぶ蓮華だけが迎えにくるのだとか。
そして弟子が源信の臨終の時に、どのような来迎往生なのか尋ねると「下品の上性くらいかな」と答えられたそうで。

また「法然上人絵伝」では、重源上人の臨終場面が描かれていて、東大寺好きには何とも貴重な場面を拝見させていただけたような気持ちです。重源上人は横向きに寝ておられ、枕元には阿弥陀来迎図がひっそりと掛けられていて、背後の襖には水辺を表した風景が描かれていました。

地獄と極楽。
身の毛もよだつ地獄の世界を表すことで、死の恐怖や不安を煽るのではなく、よりよく生きることで誰もが極楽に行けるという希望を持つことや、生命への賛歌、よりよい臨終を迎えられるようにという思いで、往生要集を表した源信と、その影響のもとで生まれた名品の数々。
たっぷりと堪能した展覧会でした。

「1000年忌特別展 源信 地獄・極楽への扉」
会期:7月15日(土)~9月3日(日)
会場: 奈良国立博物館 東新館・西新館
休館日:毎週月曜日と7/18(ただし7/17と8/14は開館)
開館時間:9:30~18:00(毎週金・土と8/6~8/15は19時まで)
※7/29・7/30は小・中学生無料、同伴保護者は団体料金に。