今秋10月にオープンしたばかり、現代美術作家・杉本博司氏が敷地全体を設計した「小田原文化財団江之浦測候所」へ行ってきました。
敷地内にシンボリックな建築物として存在する「夏至光遥拝100メートルギャラリー」。実は、10年程前に建築学科の大学院生だったお嫁ちゃんがアルバイトしていたのが、この施設の実施設計をされた榊田倫之建築設計事務所。その時に、この「夏至光遥拝100メートルギャラリー」の話を聞いていたのです。
完成までに10年はかかるだろうと聞いていたものが、ようやく目の前に現れたので、上京の折に予約を入れて早速に伺いました。
その時は、相模湾を望む高台に建設される杉本博司の個人美術館のようなイメージを持っていたのですが
「小田原文化財団江之浦測候所」という名前から、果たして一般的な美術館ではなく、では一体どのようなところなんだろうと想像力をかき立てられていました。
「測候所」・・・そう、ここは夏至や冬至、春分秋分の日の太陽光を遥拝するための仕掛けが素晴らしく整っているのでした。
サイトによると『人類とアートの起源でもある天空を測候する事に立ち戻り、国内外への文化芸術の発信地となる場として構想された』とあります。
↑ここまでの5枚の写真は、すべて「夏至光遥拝100mギャラリー」
そして、冬至の日の出を遥拝する隊道がこちら↑
この隊道の外側上部はこんな感じ↓
先の方に見える止め石まで進むことができ、とても気持ちのいい風景の広がりを愛でることができます。
(高所恐怖症の私は随分手前でストップでしたが)
その「冬至光遥拝隊道」の右手に見えるのが「光学硝子舞台」
この野外舞台では今後さまざまな公演プログラムが組まれる予定だそうです。視点を変えれば↓、海に浮かぶ舞台のように見えますね。
そして、春分秋分の日の出を遥光できるのが
「石造鳥居」↑
江之浦測候所の中の各建築物は『日本の建築様式及び工法の各時代の特徴を取り入れて再現。日本建築史を通観するものとして機能し、継承が困難になりつつある伝統工法を再現し、将来に伝える意図を持つ。また造園の為の景石には、古代から近代までの建築遺構から収集された貴重な考古遺産が随所に配されている』そうなんですが、この石造鳥居も山形県小立部落にある重文の石鳥居の形式で組み立てられたもので、古墳時代・古代・中世の石が使われているのだそう。踏込石には古墳石棺蓋石を使用だそうで・・・。
鳥居の中には「雨聴天」と命名された茶室。
躙口に置かれた光学硝子の沓脱石。
春分秋分の日の陽光が差しこんだ時に眩く輝くのだそうです。
「日々是口実」座右の銘にしたいくらい。
もう一つ、「三角塚」↑の三角形の頂点は、春分秋分の日の正午の太陽の方向を指しているのだそう。
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利休作と伝わる待庵からイメージして作られた茶室のように、施設内には、随所に過去の建築物からインスパイヤされたものや、過去の遺物(主に石でできたもの)が配されています。
その中には「奈良」にあったものも多くあり、奈良県人から見ると奈良へのリスペクトを有難いと思う反面、多岐にわたるコレクションの一部となったそれらの遺物への複雑な気持ちも無きにしも非ず。
とりあえずは、写真に収めた奈良関連の遺物をアップしておきます。
川原寺礎石(白鳳時代)
元興寺礎石3基(天平時代)
内山永久寺十三重塔(鎌倉時代)
大官大寺 瓦(白鳳時代)
百済寺 石橋(手前)と、藤原京 石橋(奥)
箱根宮ノ下にあった名旅館「奈良屋」の門。
この門の塀は、古代工法で土を固めて作る版築という工法が採られているのですが、海龍王寺の塀もこの工法で作られています。
その他にもう一つ、法隆寺若草伽藍礎石(飛鳥時代)もありました。
若草伽藍は明治期に発掘され、この礎石はその際に民間に流失したものと思われるそうで、法隆寺創建時の貴重な遺品となるようです。(それなら法隆寺にお返しする方がいいのではと、大人の事情を考えずについ思ってしまいますが)
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施設見学の始めに、こちらの待合棟で受付をして説明を受け、各自が時間内(2時間)を自由に見学できるというシステムになっています。
(こちらでお茶でもいただければいいなと思うくらい素敵な空間)
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江之浦測候所の見学は、日時指定の完全予約制です。
見学方法についての詳細はこちら★を参照ください。
ちなみに2009年に金沢21世紀美術館で開催された「杉本博司 歴史の中の歴史」展のブログ内過去記事はこちら★