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2011年4月17日日曜日

「ハーブ&ドロシー」佐々木監督トークショー

もう一週間も前のことですが、映画「ハーブ&ドロシー」の佐々木芽生監督のトークショーが奈良市ならまちセンターであり、行ってきました。

このトークショーの主催者はやまもとあつしさん。
やまもとさんは、映画の予告編をYou Tubeで見て電気が走って、すぐに佐々木監督のツイッターに「奈良で上映をして」とラブコールしたところから始まったと、トークショーの最初に打ち明けてらっしゃいました。
一人のアート好きの「想いをカタチにしよう」という意志が、このトークショーに実を結んだのだと思うと何だか楽しくなって、襟を正しながらもリラックスしてお話を聴きました。


同じように佐々木監督も、ハーブ&ドロシーのことを知った時に心臓が止まりそうになるくらいの衝撃を受けたのだそうです。その後、夫妻と実際に出会った時に、パーティで場違いな風貌なのにその世界の中心人物という二人を、ぜひ映像で紹介してみたい!と思ったのが映画製作のきっかけなのだそうです。
(普通の格好の二人が、お洒落な面々が居並ぶパーティ会場でアーティスト達に次々と挨拶を受けている様子は、映画の冒頭シーンに使われています。)


最初は、簡単に手持ちのカメラで撮れると思っていたのが、そのうちにすごい二人だとわかり、プロのカメラマンを雇って襟を正して撮らねばということになり、そのための制作費捻出の4年間がカメラを持ち込まないで二人に密着できる時間となり、二人の信頼を得たことがいい映画を撮れる結果になったということです。
例えば、ハーブが最後にコレクションした若手アーティスト、ジェームズ・シエナのことを最初は名前も教えてくれないくらい秘密主義だったのが、最後にはジェームズのスタジオで作品を買うところを撮影させてもらえるくらいになって、映画でもこの場面があることで、二人のコレクターとしての具体性が形を持って表現されていて、中々いい場面になっていました。

そのジェームス・シエナ曰く「二人が他のコレクターと大きく違うのは、全ての作品を見たがることかな。私の作風の変化をまるで調査してるように。」
「彼らはコレクターではなく、キュレーターだ」とアーティストに言わせるくらい、ハーブ&ドロシーとの出会いによってアーティストも成長しているのですね。

この映画には3つのラブストーリーがあると監督はおっしゃる。
①: 二人のアートへの愛。
②: 二人とアーティストとの友情物語。
③: 二人の夫婦の愛情物語。

③について・・・夫婦のパートナーシップがなければあの膨大なコレクションは築けなかったことでしょう。二人は、生活は図書館司書として働くドロシーのお給料で、アートコレクションは郵便局員として働くハーブのお給料で買うと決め、NYの1LDKのアパートに収まる小品しか買わないという暗黙のルールを決めていて、できるだけ無名のアーティストの作品を買っていました。(それしか買えなかったらしいのですが)それが結果的にはアーティストをも成長させていくことになったのですね。

②について・・・この映画の中で、アーティストとの友情物語というか、アーティストが語る二人にまつわるエピソードがたくさん披露されていて、それがとてもユーモアがあってほのぼのと温かいのです。
印象的だったのはクリスト&ジャンヌ・クロード夫妻との友情。トークショーでも監督が映画の中で好きな場面として紹介されていました。
「ハーブとドロシーから電話をもらってこれで家賃が払える」と喜んだジャンヌ。でもドロシーは「私達が家賃をやっと払っていると知らずにね」と打ち明ける。クロード夫妻の作品の値段が高すぎてハーブが言った言葉「来るのが遅すぎた!」結局ハーブとドロシーはクロード夫妻の愛猫を留守中に預かることでコラージュ作品をコレクションすることになるのですが、こういった、アートを通した友情物語が随所に出てきて味わい深い映画になっているのです。

①について・・・膨大なアートや資料で溢れかえる部屋。壁という壁には一寸の隙間もないくらいアートが飾られていて、アートと暮らしているハーブとドロシーの生活空間。ベッドの下にもアートが収納されていて、段々とベッドが高くなっていくという状況に笑ってしまいました。

 訪ねて来たキュレーターに「私の中の警報レベルが危険を知らせている」とまで言わせる収納ぶりですが、非常に感心したのは作品を照明から保護するために布でカバーしているという点でした。いずれ自分達の手を離れたときのためにそこまでされるとはすごいことだと思います。

ハーブとドロシーがコレクターとして有名になってくると、コレクションに加えてほしいと作品を送ってくるアーティストもいるそうで、二人は全部送り返して、絶対ただでは作品をもらったりしないのです。
たとえ高い作品が買えなくても、自分の買える範囲で身銭を切って買う。これがコレクターとしての自負であり、コレクターがいないとアーティストは育たないという彼らの誇りであります。

監督が話されていた、映画には出てこなかったこぼれ話。
「自分もコレクションをしたいからアドバイスをしてほしい」とよく言われるハーブとドロシー。こういう時の彼らのアドバイスは「地元の自分のまわりのアーティストを助けるという気持ちからスタートしてほしい。本人を知っているのでスタートしやすいと思う」なのだそうです。

数年前までの話ですが、実は私もポジャギを夢中でコレクションしていた時期がありました。同じ頃、たくさんアートも買っていましたし。そういう訳で、自分の中では、かなり共鳴する部分があって、この映画に感情移入して楽しく見入っておりました。アートを自分のお金で買うって楽しいことなのよね。そしてそれを一生涯通じて夫婦でできるって幸せな生き方だと思います。
アートを愛しアートに愛されたハーブとドロシーの素敵な生き方。
近いうちに「ハーブ&ドロシー」の映画が奈良のあちこちで上映される予定ですから、その時には皆さま、是非ぜひ映画を見にいらしてくださいね!

(画像、下4枚は映画のパンフレットより)