2012年2月23日木曜日
私の修二会*「奈良旅手帖」コラムより
「奈良旅手帖2012」掲載の3月のコラムより++
「お水取り」が始まる3月1日から満行までの15日間。
東大寺二月堂周辺に漂う一種独特の雰囲気は
一言では言い表せられない何か不思議な磁力で満ち溢れている。
ピーンと張りつめた緊張感、厳粛にして清浄な世界。
かといって神秘的で宗教的なだけであるかといえばそれだけでもなく
湯屋や参籠宿所では「お水取り」を支える人達が
朝早くからそれぞれの役割を甲斐甲斐しく果たして
この時期の二月堂あたり一帯には、生き生きとした活気や賑わいも溢れているのである。
多くの参拝者にとって、毎晩上がるお松明の夜空を焦がす炎の美しさは
毎年見ても見飽きず何度見ても感動してしまう心湧き立つもの。
でも「お水取り」の本当の凄さとは、このお松明の後
二月堂の堂内で11人の練行衆による祈りの法会「十一面悔過法要」にこそあるのである。
深夜にまで及ぶ厳しい祈りの行は、752年に始められて以降
今まで一度も途絶えることなく続く「不退の行法」。
南無観南無観・・・と唱えられる声明のリズムに身を委ね
練行衆の捧げる祈りに心を寄せる。
今年で1261回と連綿と続く歴史の一瞬に我が身を置くことができる喜び。「お水取り」の行事の持つ厳粛で深遠な魔力に惹き寄せられて、今年もここに来られることの有り難さ。
三月の奈良で是非訪れていただきたい場所こそは二月堂である。
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何月でもいいから、その月の奈良のお奨めの場所を書いてほしいと
昨年「奈良旅手帖」の生駒さんから原稿依頼を頂いた時に
私が迷わず選んだのは、三月のコラム、場所は二月堂でした。
二月堂の近くに奈良倶楽部を開業して20年余り。この間
「お水取りがとにかく好きで」という多くのお客様に接して
私も少しずつですが、時間を作っては二月堂に通い
お水取りの魅力(魔力?磁力?)に取り憑かれて参りました。
修二会に私が感じる魅力を、限られた字数の中で上手く表現できたかわかりませんが、この原稿を書いていた8月の真夏の数日間、春まだ浅い二月堂を取り巻く緊張感を想像しては気持ちが浮き立っていたことは確かで、これもまた有り難い出来事でした。