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2016年11月16日水曜日

「奈良少年刑務所」写真集

つい先日発行なったばかりの「奈良少年刑務所」写真集。
写真家・上條道夫さんが2010年に撮影された刑務所内部の写真集です。
以前に開催された写真展で、その写真は拝見したことがあったのですが、その時に発表された写真以外にも貴重なショットが多数収録されています。

また「写真編」だけではなく「寄稿編」もあり、刑務所と何らかの形で関わった26人の人達からの寄稿文が 大変読み応えがあるのです。
「寄稿」編の内容は・・・
・わたしたちの刑務所
・あたたかな刑務所 歴史に育まれた更生教育
 寮美千子/田中睦/大川哲次/露の新治/脇屋眞一/上司永照
・みんなの刑務所 地元の揺るぎない絆
 横田利孝/小井修一/前田久美子/新井忍/谷規佐子
・なつかしい刑務所 煉瓦作りからスポーツ交流まで
 鈴木啓之/高井啓介/山中千恵子/濱田恒一/四本雅勇
・たいせつな刑務所 近代建築の保存と活用
 前畑洋平/神吉紀世子/馬場英男/日本赤煉瓦建築番付
・わたしがいた刑務所 塀の中からの風景
 太田憲一郎/前田剛/シンタロー/高田鑛造
・夢みる刑務所 未来への提言
 北夙川不可止/川井徳子
・美しい刑務所  明治の名煉瓦建築
 藤森照信/石田潤一郎
(・・・実は、私も文章を書かせていただいているのです。)

前書きで掲載されている
山下洋輔氏の「おじいさんが造った刑務所 祖父・山下啓次郎と奈良監獄」や、寮美千子さんの「丘の上の刑務所 明治日本の司法近代化の記念碑」などからは、この美しい少年刑務所をどうにかして保存して残したいと願った経緯や、何故このような美しい刑務所が作られたのかという歴史的背景もよくわかり、建物への愛に溢れた文章が格調高く書かれています。
明治の五大監獄の設計をされた祖父山下啓次郎氏とのツーショット。
「第四寮」など各舎房の名前の周囲に、漆喰の鏝絵で美しく縁取られている↑とか、舎房の外側の屋根の下には、蛇腹風の軒飾りロンバルディア帯が隈なく施されている↓とか、細部にまで美しい建物であることも書かれています。
そして「寄稿編」に寄せられた、刑務所のその後への思いや、少年達を心配する声などに、地域の人達や教育で関わってこられた人達の、それぞれ立場は違っても同じ共通の思いを知りました。
奈良少年刑務所で今まで取り組んでこられた更生教育(心を耕し、心を開き、自己肯定感を育んでいく心の教育)や、専門的な職業訓練(刑務所内の若草理容室は街の人も利用出来る理容室。そして理容師の国家試験合格率がものすごく高い。また情報処理技術者試験の合格率は5割を超えるそうです)を、刑務所がなくなっても、そのあとのこの場所で続けていける施設ができないか、心の再生と就労が再犯防止になるのだと、職業訓練の外部講師の方や篤志面接委員の方々が書いてらっしゃいました。
(実は、私の文章も同じような意のことを書いています。→自分の未来に夢や希望を持てない若者たちが、ここへ来たら未来が見える、夢を抱けるような場であってほしいと願っています。「あの場があったから、非行に走らないですんだ」「わたしは救われた」と言ってもらえるような、そんな何かを、ぜひ作っていってください。 奈良少年刑務所は、とても美しい建物ですが、その美しい形だけ、器だけを残していくのではなく、ここで脈々と受け継がれてきた精神や育まれてきた心を受け継ぎ、未来に活かしていく施設に生まれ変わってほしいと思っています。
↑フルコトあるじの新井忍さんと同じページに掲載されています。ちなみに新井さんは刑務所内の若草理容室を利用されていたそうです。

その他に、元受刑者の人達の寄稿文がまた興味津々で面白いのです。その中の一人が、建物の魅力に触れていました。完成されたシステマチックな施設には決して達成できないであろう、改善・更生への手助けという大役を、この細部にまで美しい呼吸していると感じる建物が担っているのだと(←本文より一部抜粋)

東大寺の僧侶・上司永照さんも篤志面接委員として寄稿されていますし、著名な建築家・藤森照信氏の建築的考察や、また、スポーツ交流や煉瓦作りや屋根の葺き替え工事などで刑務所と関わった人たちのエピソードも興味が尽きないです。
地元自治会や般若寺町の人達の寄稿文には、長い時間の中で地域との連携で培われた信頼関係を感じました。奈良少年刑務所が、いかに地域の人達に受け入れられ、あたたかく見守られてきたか、その歴史をあらためて知ったのでした。

美しい写真の魅力もさることながら、読み物としても大変読み応えのある写真集です。よろしければ是非手に取ってくださいませ。

「写真集 美しい刑務所 明治の名煉瓦建築 奈良少年刑務所」