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2018年7月22日日曜日

奈良博「糸のみほとけ」展へ*

「糸のみほとけ―国宝 綴織當麻曼荼羅と繡仏―」
當麻寺「国宝 綴織當麻曼荼羅」の修理完成を記念し、綴織と刺繡による仏の像を一堂に集めた特別展です。
出展点数は国宝9件、重要文化財35件を含む138件とすごいボリュームで、刺繍が至近距離で見られるように、展示ケースのガラス面ぎりぎりに作品を置くという工夫が全てにされています。
ガラス越しですが、刺繍糸の一本一本、また刺繍を施した下地の布地の織り柄まですごくクリアに鑑賞できるのです。
飛鳥時代の刺繍「天寿国繡帳」は今までに何度か観ているのですが、今回はその展示の仕方が素晴らしくて、またこんな見方は二度とできないかもしれないと思いました。
それぞれの展示物に、詳しく丁寧なキャプションがついているのも、いつもの奈良博ならでは。毎回、奈良博の展示物に対する愛を感じて、その展覧会を鑑賞するのが楽しいのでした。
今回の展覧会では、いつもの出口が入口になり↓、入口のところが出口になる↑という構成で、中の展示室の使い方もいつもと違って、それがまたとても新鮮でした。
さて、いつもの鑑賞記ですが、取敢えずは強く印象に残ったところをピックアップしてみます。
展示物の量が多すぎて、実はあまり消化できていないのです。
(普通に鑑賞していて3時間はかかると思って下さい。)

会場の構成は・・・①西新館の北側展示室では
「天寿国繡帳」「綴織當麻曼荼羅」「刺繡釈迦如来説法図」の国宝3点が一堂に会して、それはそれは見事。圧巻でした。
聖徳太子が往生した世界を刺繡で表した「天寿国繡帳」↑は、鎌倉時代に模本が作成されました。江戸時代に、新旧の繡帳は断片化しており、飛鳥時代のものと鎌倉時代のものの断片を貼り交ぜた状態で一幅の掛物としたのが、この現在のもの。  
この中で、刺繡糸の美しい残欠の方が飛鳥時代のもので、茶色に退色した刺繡片の方が鎌倉時代のものというのも面白く、1400年も前の刺繍糸の色鮮やかさにも感動します。
併せて「天寿国繡帳」の刺繍断片もたくさん展示されていましたが、刺繍を施していない布地が摩耗して刺繍片が残るということで、この展覧会の趣旨である「一針一針に込めた祈りの刺繍」から話は飛びますが、布に刺繍を施すことによって布地を強くするという、アジアやアフリカに残る刺繍に通じる目的を感じました。
「綴織當麻曼荼羅」↑は奈良時代に中将姫様の祈りによって、蓮糸を使い一晩で織り上げたと伝えられる約4m四方の曼荼羅。
初めて目にした「綴織當麻曼荼羅」原本。
まさか一晩で織り上げられたとは思いませんが(部分復元模造を川島織物が製作されて、そこから計算しても8年はかかるだろうとのこと)、中将姫様の強い祈りが1200年以上の時を経て今に伝わっていることを思うと何ともいえない感動を覚えました。
「刺繡釈迦如来説法図」↑は、古代の繍仏で最も大きく完成度の高い作品。刺繍の技法は、馴染みのある鎖繍がメインと知って、よくよく眺めてにんまりしたり。
法隆寺金堂壁画六号壁に描かれている菩薩と近似の菩薩もあり、制作年代が飛鳥時代後期に遡る可能性もあるのだとか。
それにしても、古代の刺繍技術の素晴らしさ!そして、我が国最初の仏が刺繍であったことや、繍仏が古代には盛んにつくられていたことなども、この展覧会で初めて知ったことでした。
大英博物館からは、敦煌で発見された繡仏「刺繡霊鷲山釈迦如来説法図」↑が!日本初公開だそうですが、お隣に展示の「刺繡釈迦如来説法図」と見比べて鑑賞する贅沢も堪能できました。 

会場の構成②西新館の南側展示室は
平安時代から鎌倉時代の繍仏と、中国の繍仏が一堂に。
歴史的に見て、平安時代は綴織の仏(織成像)や繍仏が急激に少なくなり、仏画の製作が盛んになった時期。
鎌倉時代になると、また繍仏の作品数が飛躍的に増え、作品は小型化するが工芸的な美を極めた繍仏が登場し、再び繍仏の黄金期を迎えます。
また、中国の繍仏のコーナーでは、知恩院蔵の「刺繡九条袈裟貼屛風」↑の意匠が見事でした。

会場の構成③東新館の展示室に入った途端に目に飛び込むのは
京都・真正極楽寺の「刺繡當麻曼荼羅」↑
江戸時代に、綴織當麻曼荼羅と同寸で表された大幅の繡仏。
金糸をふんだんに用い、眼と白毫には水晶を嵌めて、江戸時代の様々な刺繍技法が施された當麻曼荼羅。展示の仕方も素晴らしくて、離れがたいものがありました。
真正極楽寺(真如堂)では、普段非公開のものですから、もう一度ゆっくり拝見てみたいと思います。

東新館では、美しい中将姫坐像がお迎えくださいます。
そして、髪の毛を繍い込んだ「阿弥陀来迎図」や「阿弥陀三尊の種子(梵字)」の数々。
「阿弥陀来迎図」では、如来の螺髪と菩薩の髪、衣の一部を髪の毛で刺繍しているものがほとんどで、おそらく、この髪の持ち主の極楽往生を願って、仏の一部に髪を繍い込んだのではと考えられています。
たくさんの髪繍が一堂に集まった会場。黒々とした髪の毛が今も色褪せずに発色している様子に、追善供養や祈りの気持ちを理解しながらも、個人的にはちょっと苦手と、最後のコーナー、近世・江戸時代の繍仏のところに来て、ほっとしたこともカミングアウトしておきます。
こうして飛鳥時代から江戸時代までの繍仏を見ていくと、各時代ごとの刺繍技術の変遷もよくわかってたいへん面白かったです。特に江戸時代になると、もう現代そのものという感じなのですね。
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とにかく出展物のボリュームがすごくて、予定していた時間では足らず、後半は駆け足で鑑賞してしまいましたので、8/7以降の後期展示にもまた行かなくてはと思っています。

「糸のみほとけ―国宝 綴織當麻曼荼羅と繡仏―」
会期:7月14日(土)~8月26日(日)
会場:奈良国立博物館 東新館・西新館
休館日:毎週月曜日(ただし7/16・8/13は開館)
開館時間:9時30分~18時
※毎週金・土曜日と8/5~8/15は19時まで
※入館は閉館の30分前まで
その他に:
※7/24(火)10時より、会場の「綴織當麻曼荼羅」の前で
當麻寺中之坊の僧侶により蓮華会を勤行します。
(蓮華会は旧暦6月22日の夜から23日の朝にかけて中将姫が當麻曼荼羅を織ったのにちなみ、7月23日に當麻寺本堂の當麻曼荼羅の前で行われます)
※7/28(土)7/29(日)は小中学生無料デーです。
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