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2018年9月18日火曜日

「奈良に息づく祈りのこころとかたち」

9月17日。ご近所の工場跡倉庫で「奈良に息づく祈りのこころとかたち」と題して、今年3月に出版された書籍「神饌ー供えるこころー」の文章と編集を担当された倉橋みどりさんのお話会がありました。
今回は写真家の野本さんとのトークではなく、倉橋さんお一人での講座でしたが、取材・編集の中でのエピソードや編集者としての苦労など、この本が生まれるまでの経緯をお聞きすることができ、「神饌」について、その心をも、より一層深く学び知ることができました。
でも、会場には写真家の野本さんもいらっしゃって、要所要所で貴重なお話を伺うことができました。
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伺ったお話として・・・
まず、「神饌」とは、お祭りなどで神様に献上するお食事のこと。
日本のお祭りの特徴の一つに「神人共食しんじんきょうしょく」という、神様をおもてなしして、そのお下がりを参列した人たちでいただく行為がある。「神饌」を長くお供えしたままにするのでなく、美味しいうちにいただくのが大事なのだそうです。

この本を作ろうとした経緯について。
祭とワンセットの神饌の本はあるが、神饌に特化したものはなく、専門の本を作りたかった。本ができるまでに1年半くらいかかった。
本を作る中で苦労したのは、野本さんの写真がどれも素晴らしくまた大量にあり、選ぶのが大変だったということ。
例えば表紙にする写真が中々決まらなかったという嬉しい苦労も。


まぼろしの表紙の中には、裏表紙や中表紙になっている写真もあり。
(本をお持ちの方は探してみてくださいね。)

倉橋さん自身は「神饌」について最初は、神様への御供えとしては、お酒・生米・塩などの白いイメージだったので、野本さんの写真を通してカラフルな色使いの神饌に触れて大変驚いたと。
本の章立てを考える時に、カラフルな色で驚いたので、本の中でも「神饌の色色」を第一章に持ってきた。
また、上の写真↑のように、県内4か所で同じデザインのお供えがあり、野本さんが、ある神社で「あそこの神社と同じお供えですが、祀られている神様が同じなのですか?」と尋ねて、ある神社の方はそれを知らなかったので大変びっくりされたというエピソードも。
野本さんは、「嫁入りなどで他所から来た人のアイデアをもらって、デザインが同じになったのでは?」と推測されていました。
神様にその季節の美味しいものをお供えして召し上がっていただく。盛り付けにも工夫して綺麗に飾って喜こんでいただく・・・ということに、そこに理由はないということです。
また、まぼろしの表紙の中で出てきた山の神へのお供えの写真↑について、山の神は醜いおばちゃんだそうで、ヤキモチを焼かないためにも美しいものは供えないのだそうです。
神様に喜んでいただくだけでなく、神様を怒らせないというのも大事なポイントなのですね。

章立ての工夫では、舞や音、水や火など、食べ物でないお供えについて、本の中に神饌としていれるかどうかも悩んだそうです。
ただ、野本さんの写真は水や火を撮ったのが大変素晴らしく、神様に喜んでいただくためにという思いが一緒なので紹介されました。
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ここで休憩
お茶菓子には萬林堂さんの「春日ふたつ梅枝」をいただきました。
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後半部分は、談山神社「嘉吉祭」の神饌「百味の御食ひゃくみのおんじき」について詳しいお話でした。
この3色の毛のようなもの↑一体何だと思われますか?
これは「荒稲あらしね(別名・毛御供けごく)」と言われ、禾のぎ(籾に付いている毛)の長い品種の古代米を一粒ずつ貼り付けて作ります。黒色・白色・紫色は自然の色で染めていないそうです。
こちらは「和稲にぎしね」↑で、一台につき米粒3000粒を使い、四色に染め分けた米粒を一粒一粒貼り付けて作ります。
この「荒稲」と「和稲」は神職さんが、一人一部屋に詰めて集中して作ります。その他の神饌は氏子さん達が10月になってから神社に集まって作っていくそうです。
嘉吉祭は10月の第2日曜日。今年は10/14に行われます。
当日は、十三重塔から本殿へ、これらの神饌を10数人で手渡ししながら受け渡していく献饌の様子が見どころでもあるので、是非9時頃から行って見てくださいと、野本さん。
祭が終わった後は、拝殿のショーケースに入れて一年間飾られるので、嘉吉祭当日でなくても是非ご覧になってください。

この「百味の御食」は明治以前は文字通り100種類もの神饌が用意されたそうですが、今は50種類二組が用意されています。
このように材料の変遷は、時代によって変わることもあり、大事なのは美味しいもの・近辺で採れたものを召し上がっていただくという心。
お供えする時の先頭は「無垢人むくびと」と呼ばれる人形で、手にしている釣り竿は以前からこれを持っているのかどうかはわからない。
上の写真↑の右側、向こうには鶏頭の花が供えられていて、倉橋さんの印象として、鶏頭の花がお供えではよく見かけるということでした。
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当日のメモを参考に長々と書き留めましたが、最後に、倉橋さんが神饌の取材を通して教えられた大切なこととして
「人間ではなく神様のためにしている。先人が続けてきたことは続けていく。理由はいらない」ということを挙げておられました。
私も「神饌ー供えるこころー」の本を持っていて、神饌の写真もよく眺めていたつもりでしたが、こうしてお話を聞いてみると、神様にお供えすることの真髄がより一層よくわかって、大変有意義な時間でした。
どうもありがとうございました。
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10月初めのお祭りとしては
10/5 手向山八幡宮転害会(前日夜の宵宮では奉納舞も)
10/8 奈良豆比古神社翁舞(翌日は神事相撲19時頃)
1014 談山神社嘉吉祭
ぜひお出かけになってみてくださいね。