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2011年7月17日日曜日

「天竺へ〜三蔵法師3万キロの旅」奈良国立博物館

「西遊記」で親しまれている”三蔵法師”こと玄奘三蔵。
玄奘は、今から約1400年前、仏の教えを求めて中国・唐から天竺へ
17年の歳月をかけて3万キロにもおよぶ求法の旅をしました。
その旅の生涯を描いた「玄奘三蔵絵」は全12巻。
全長総計が190m以上にもなる、この国宝の絵巻が全巻一堂に公開されるのはこの展覧会が初めての事だそうで、大変楽しみに初日に鑑賞しました。

展示室に入った途端、まず玄奘三蔵の坐像がお迎えしてくれます。
長い間壊れた状態で薬師寺の収蔵庫に眠っていたのが修理を経て蘇ったもので、理知的な眼差しが印象深いです。
この具像を最初に見たことによって、この後、絵巻の中の玄奘の生涯を見ていく時も、絵巻の平面世界をより具象化してイメージできました。

さて、その全12巻の絵巻です。
全体的な印象は「大変美しい」ということ。
鎌倉時代に宮廷絵師によって描かれたものですが、保存状態がよく
描かれた当初の色鮮やかな画面の美しさは、この絵巻が大切に守られてきたということなのでしょうね。

勿論、保存状態が優れているだけでなく
流暢な線描で生き生きと描かれた人物や動物たちはとても魅力的だし、金や銀、白の胡粉といった高級顔料を惜しげもなく使った山水描写はとても洗練されていて上品な美しさを感じます。
私は巻第三の「雪路の天山山脈越え」の場面が好きです。
天山山脈の凍えるような厳しい寒さに一行の大半が息絶える画面。ちらつく雪は白の胡粉。彩色、空間構成とも申し分ない美しい静謐な画面の片隅に描かれた、冬眠中の熊が眠そうな顔して洞窟の外の気配を感じている様子。(上の写真、右側の黒い熊に注目↑)
この絵巻を描いたといわれる、鎌倉時代後期の宮廷絵師 高階隆兼のユーモアあるセンスに唸ってしまいました。
祇園精舎の跡地を訪ねた場面に描かれていた狐。↑
かつて釈迦が説法を行なった祇園精舎も廃墟となり、荒廃した様子が描かれているのですが、草茫茫の敷地にのびのびと遊ぶ狐が、画面に奥行きを与えているように思うのです。

玄奘の子供時代から始まり、出家、天竺への旅の道中、天竺での修行の日々、唐への帰国、仏典の翻訳、入滅・・・と、この絵巻を順に見ていくことで、私達も一緒に その生涯を旅しているような感覚で楽しめ、また玄奘や仏教についてもわかりやすく学ぶことができます。

また絵巻だけでなく、玄奘が晩年に訳した大般若経の奈良時代の写経387巻(国宝)も一堂に展示されていてそのボリューム感には圧倒されます。 その他にもいっぱい見どころがある展覧会ですが
「玄奘三蔵絵」絵巻だけでも一見の価値ある展覧会。
展示替えのある後期も感動を味わいに是非訪れたいと思います。

「特別展 天竺へ~三蔵法師3万キロの旅」

会場:奈良国立博物館
会期:7/16(土)~8/28(日)
※全12巻の絵巻は前期(7/16~8/7)に各巻の前半部分
後期(8/9~8/28)に各巻の後半部分が展示されます。
開館時間:9:30〜18:00(入館は閉館の30分前まで)
※毎週金・土曜日および8/2〜8/21は19:00まで開館
休館日:毎週月曜日(7/18と8/15は開館し、7/19は休館)
特別展期間中公開講座関連イベント
8/16〜8/21には「なら仏像館」西側の壁に
三蔵法師の物語を映像で映し出す『ならファンタージア -SANZO-』も開催されます。