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2017年11月5日日曜日

「第69回 正倉院展」へ*

正倉院展に行ってきました。
お客様方には「夕方の時間帯が空いていますよ」とご案内しながら、私はお昼の休憩時間しか時間の都合がつかずに出かけましたら、そこそこの行列。そして館内はかなりの混雑ぶりでした。
ポスターやパンフに使われている宝物は、どれも異国情緒に溢れて、天平文化の香りただよう銘品ばかり。
そんなお目当ての品々をうっとりしながら拝見していきました。
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個人的な鑑賞記を今年も書いてみました。
長文ですので、よろしければ<続きを読む>からどうぞ。



今回は、2000年以降に出陳されたものがまた出陳されていたりしたので、以前に鑑賞したことがあるあるという既視感を覚えながら拝見。
ポスターなどのメインビジュアルに使われている「羊木臈纈屛風ひつじきろうけちのびょうぶ」↑と「熊鷹臈纈屛風くまたかろうけちのびょうぶ」↓のろうけつ染の屏風が並んであり、どちらも以前にも見たなぁ、この屏風にはあちこちに動物が隠れていて面白いなぁと拝見していくと
そのお隣には、ミツバチの巣から作った蠟である蜜蝋「﨟蜜ろうみつ」↓があり、天平の昔から蜜蝋が精製されていたことに驚きました。
蠟の成分は、調査によりトウヨウミツバチにより生産されたことがわかっていて、トウヨウミツバチが分布する中国などの東アジアからもたらされた可能性があるということです。
ろうけつ染めに用いられた「﨟蜜ろうみつ」の展示と、その背後の壁面には、制作過程が説明されてあり、単なる正倉院宝物だけの展示だけでなく、関連するものを展示して想像力を膨らませてくれる、奈良博のこういう心遣いが好きなのよねと独り言。ちなみに「﨟蜜」は初出陳です。
初出陳といえば、この「花籠けこ」もです。
大仏開眼会に用いられたことがわかっていて、1265年以上も時を経たとは思えないくらい美しく緻密で心惹かれました。
正倉院宝物の何に心がときめくのかというと、美術工芸品の技術の高さや美的センスに目が行くのですが、今年も唸るようなのが何点かありました。
大理石製の「玉尺八」↑
尺八は本来は竹でできているので、大理石に節を作り。表面に縦の削り痕を残して竹の表皮を意識したりで、竹でできているのかと見間違うほどの芸が細かいこと。
芸が細かいと言えば「玳瑁杖 たいまいのつえ」↑も精密で加工技術の高さに唸りました。こちらも、まるで竹の杖のような風合いですが、木芯に玳瑁たいまい(鼈甲)を貼って、その継ぎ目を重ねることで竹節を表わしているのだとか。会場ではよく見えなかったのですが、それぞれの節には三股に分かれた玳瑁製の小枝が差し挟まれているのです。
そして、その小枝の最上部中央の一本は蔓のように下方に巻き付いているという芸の細かさ!
杖の石突部分は象牙製で、やはり竹のような風合いを表現しています。施された文様は撥鏤の技法で、何とも素晴らしい逸品!
また、この「蘇芳地六角几すおうじのろっかくき」↑の床脚には、玳瑁たいまい(鼈甲)が貼っているような装飾が施されていますが、これは金箔を押して、墨と蘇芳色で斑紋を描いて玳瑁に見せかけたもの。
もうあちこち芸が細かすぎて溜息がでるのでした。
経巻を包むものだそうです。「最勝王経帙 さいしょうおうきょうのちつ 」↑
文様をよく見ると、合掌しているようなポーズの迦陵頻伽の周りに葡萄唐草文を並べ、その外周には文字が巡らされています。↑
細く削った竹を密に並べて芯とし、それを覆い隠すように絹糸で簀子編みして文様と文字を表しています。
こちらも経巻のつつみ「竹帙じす」↑
太めの竹ひごに色糸で帯状の文様を編み出しています。
その他にも心ときめく宝物がいっぱい過ぎるのですが・・・。
ガラスのさかづき「緑瑠璃十二曲長坏 みどりるりのじゅうにきょくちょうはい
底面にはチューリップ、側面には兎が刻まれていて、とても美しいのです。このさかづきの縁に聖武天皇も口を付けられたのかしら・・・と想像するだけでドキドキ。
帯や帯飾りや腰飾りの装飾品も、身につけられた方が、どれほどお洒落だったかと想像するだけで楽しくなりますね。
さて、今回の展覧会では動植物をモチーフにしたものが多かったように思うのですが、現在の東京都葛飾区柴又あたりの戸籍「続々修正倉院古文書 第三十五帙 第五巻 ぞくぞくしゅうしょうそういんこもんじょ」↓には
名前に十二支の動物名が付いた人物が多くて、最後に、これも動物関連での出陳かな?と奈良博学芸員さんのユーモアにクスリと笑ってしまいました。
写経生の作業報告書だそうです。↓
「続々修正倉院古文書 第二十帙 第二巻ぞくぞくしゅうしょうそういんこもんじょ
写経生みずからの手による文章の字は、決して上手とは思えません。
写経の字は仕事用で普段の字はこんな感じ・・・と思うと、奈良時代の写経所の皆さまがとても身近に感じられたのでした。
さて、今年もたっぷり正倉院展を楽しませていただきました。
イヤホンガイドもわかりやすく説明されているので、2倍にも3倍にも想像が膨らんで、とても楽しい時間でした。
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「正倉院展」
会期:10/28(土)~11/13(月)会期中無休
開館時間:9:00~18:00 ※金・土・日・祝日は20:00まで
(入館は閉館の30分前まで)
会場:奈良国立博物館 東新館・西新館
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正倉院展期間中の「正倉院」外構の公開は
開催中は毎日10:00~16:00まで公開されています。
奈良倶楽部から徒歩5分。普段は平日のみの公開なので、この機会に是非お立ち寄りくださいませ。