「東アジア文化都市2016奈良市~古都祝奈良~」の舞台芸術イベントとして上演されたのは、『SPAC ― 静岡県舞台芸術センター』の「マハーバーラタ〜ナラ王の冒険」。
ほとんどお芝居を観る機会を持たずに過ごしてきたので、演劇に対しての知識を持ち合わせていない私ですが、かえって楽しみたいの一心で観たからでしょうか。
音楽も衣装も舞台もとても美しくて素晴らしくて、観ている間中が楽しくてわくわくしていたのでした。それから2日経っても、思い出す度にまだ余韻が心の底にあって、何ともいえないくらい感動しています。
平城宮跡というあの場で、あそこでないとできなかったと思えるような演出、舞台構成。(それは始まった途端に舞台の後ろの大きな木に映し出されていく影で、一瞬にして引き込まれたのでした。)
疾走感のあるパーカッションのリズムと、義太夫のような語り、そして美しい舞台衣装を風になびかせ躍動する役者たち。
虫の音も耳に心地よく、音楽が止まった時に遠くで時々聞こえる近鉄電車の走る音もここではご愛敬。
久しぶりにお芝居の臨場感、観客と一緒に作り上げていくという一体感、なんと表現していいのか言葉が見当たらないけど、その時の一瞬の舞台芸術の醍醐味を味わうことができたと思いました。
敢えて、大極殿の前でなく、平城宮跡の草原のこの場を選ばれたということにも拍手を送りたいです。
【平城宮跡×SPAC『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~』】SPAC芸術総監督 宮城聰氏×「東アジア文化都市2016奈良市」舞台芸術部門ディレクター平田オリザ氏のアフタートーク開催レポートがアップされています。こちら★
アフタートークより「平城宮跡」で演じることについて宮城聡氏が語ってらっしゃいますので、以下に引用させていただきます。
実はお話をいただいた時には既に、この時期のスケジュールは多く埋まっていていました。
本当は厳しかったのですが、しかしこの平城宮跡でやらないかという誘いを断るのは、申し訳ないというか、「演劇人が廃る」と言うような気がして、お引き受けをしました。
僕たちSPACのやるような芝居は「古の死者たちの魂を招いてくるような作品」ばかりです。
例えばシェイクスピアをやろうが近松門左衛門をやろうが同じことなのですが、その過去の言葉を書いた人はもうこの世にはいない。けれど、その人の戯曲をやることによって、その人の魂がその場に呼び戻されてくるわけですね。この『マハーバーラタ』も同様です。
2000年という長い間インドで伝え続けられ、沢山の人が影響を受け、感動して涙を流したりしてきたお話ですが、そんな沢山の人たちの魂まで、一緒になって集まってくる。そんな「魂を集める」ような仕事をしている僕たちにとって、ここ平城宮跡という特別な場所で舞台を出来るということは、俳優、スタッフ一同にとっても貴重な経験になります。
「何もないところでやることに価値がある。」演劇をやっている人間にとってそれは本当にその通りだと思います。
演劇とは全て幻なんですよね。この劇場も、たった4日間だけ上演して、翌日にはもう影も形も残らずなくなってしまう。でも、だからこそ心の中に残っていくもの、それが演劇なのかな、と思っています。
僕たちSPACの公演後、『維新派』の公演が、同じくここ平城宮跡内で行われます。まさに、先日亡くなった主宰・松本雄吉さんの魂が戻ってくるような公演があることでしょう。しかしそれもまた終わればあとかたもなく消えて、元の何もなかった平城宮跡に戻ります。
ですから、こういう場所に僕らのような者が来ることで、皆さんに出来ることは何かというと、想いを「手渡していく」、「受け継いでいく」ことだと思っています。形のあるものではなくて、形のないもの。ひとことで言えば「思い出」を受け継ぎ、「思い出」を渡していく。それが、人間にとっていちばん大切なプレゼントなのではないか。
たった4日間だけの劇場、終われば影も形も残らずに、また元の何もない平城宮跡に戻る。それだからこそ、決して他のものでは受け取れないものを得ることができるのだと思いました。
素晴らしいパフォーマンスを観ることができ、ありがとうございました。