ページ

2014年10月28日火曜日

「第66回 正倉院展」*自分流鑑賞記

「天皇皇后両陛下傘寿記念 第66回 正倉院展」へ
初日10/24(金)の夕方に行ってきました。
16:30頃に到着で、待ち時間0分。館内も、私が鑑賞したここ何年かの中でびっくりするくらい空いてました。また今年は例年より出陳点数が少なく(でも、天皇皇后両陛下傘寿の記念展らしく華やかで素晴らしい宝物ばかり!)展示空間が広々と感じられました。そのため大変ゆっくりと見ることができ、ずっと「楽しい!」というわくわく感を維持しながら鑑賞できたのでした。
毎年のことながら天平の至宝に心掴まれるひととき。奈良倶楽部に戻って仕事をしながら、またこうしてブログを書きながら、観てきた宝物を思い出しては胸の中にじんわり温かい感情が溢れ出てくるという・・・どれだけ自分が「正倉院展LOVE」な人間なのかと嬉しくなって観ておりました。

では恒例の、自分流鑑賞記を図録の写真とともに綴ってみましょう。
私は正倉院宝物のデザインや色の美的センス、美意識の高さにいつもうっとりさせられるのですが、今年は特に「色彩の妙」に唸りながら鑑賞しました。
「桑木阮咸くわのきのげんかん」↑を入れる袋「深緑絁阮咸袋」↓の深緑色の色味の深いこと。絁あしぎぬというのは国産絹の平織りのことで、裏地をつけて袷仕立てになっています。その裏地の萌黄色も色鮮やかで、そこに残る墨書も鮮明でした。

楽舞用の靴下の緋色の美しさ。ここにも「迦楼羅」「東大寺 天平勝寳四年四月九日」の墨書が残っています。↓

聖武天皇が大仏開眼会で履かれた儀式用の靴「衲御礼履のうのごらいり」↓赤く染められた牛革で作られていますが、何と鮮烈で気品のある赤なのでしょう。

楽しみにしていた「鳥毛立女屏風」に描かれた女性像の健康的な肌色も印象が強烈でした。「面部は硫酸鉛による白色顔料を塗った上から赤色の隈取りを施し、小さく赤い唇には鮮麗な朱を塗り、眉は大きく弧を描き、額中央に花鈿、口の両側に靨鈿を点じる」と、図録の解説にありましたが、保存状態のいい第四扇(写真上↑の左側)と第五扇(写真下↓の右側)に比べて、第六扇(写真下↓の左側)は欠損が著しく、面相部を残して全て後補だということを知りました。
…ということは、第六扇(左側↑)の女性像のお顔は天平時代のまま!1250年以上も美しい肌の状態を保った天平美人には、人を惹き付けてやまない魅力があると思いました。

今回、一番ときめいたのは「人勝残欠雑張じんしょうざんけつざっちょう」↑
これは人日(正月七日)に行なわれた無病息災や子孫繁栄を願う行事に用いられた飾り物だそうで、色絹や金箔を人や動物、植物の形に切って飾りとしたものを屏風に貼ったり、髪飾りに用いたり、贈答したりしたそうです。
後年、破損が進んだために、明治時代に二枚分の残欠を一枚の裂に貼り合わせたものですが、それも何と大胆な決断だなぁと感心したのです。

「暈繝錦几褥うんげんにしきのきじょく」は献物用の台に敷く敷物です。↓
何とも味わい深い色彩が残っていて、配色のセンスに脱帽しました。
近年の調査で、用いられている染色材料と技法が判ったそうです。
また「暈繝うんげん」というのはグラデーションのことで、一つの色をぼかすのでなく、段階的に濃淡を付けて彩色する方法だそうです。
ここに使われている染料は、茜、藍、きはだ、紫根、紅花などの植物からのもの。二種類の植物染料を重ね染めも駆使して微妙な色を作り上げ、千年以上経っても素晴らしい風合いを保っている・・・大いにときめかせていただきました。

色彩にばかり目がいって鑑賞していましたが、この「粉地木理絵長方几ふんじもくりえのちょうほうき」↓の配色もやっぱりいいですね。図録の解説を読むと、鉛白など人工顔料も用いられているそうです。
献物用の台、もう一つ「金銀絵長花形几きんぎんえのちょうはながたき」↓も、色彩や形体に趣向があって素晴らしいです。

「色彩の妙」に感心しての鑑賞は最後の展示まで続きます。
玉繋ぎの編み物の残欠「雑玉幡 残欠」色ガラスの配色も見事です。

::
その他に、これらも美しかったです。
聖武天皇ゆかりの経典「梵網経ぼんもうきょう」↑
お経の表紙には山水画が描かれて、ガラスケースの壁面から見ると、これがとても繊細でびっくりしました。
また、この梵網経を納めたとされる経筒↓に装飾された文様も素晴らしかったです。
美しいなぁと感じたものはまだまだありますよ。
「鳥獣花背方鏡」↑方形の鏡は珍しいですね。
「檳榔木画箱びんろうもくがのはこ」↓のデザインはとってもモダン!
シルクロードからの将来品「白瑠璃瓶」↓を見ていると、繊細なガラスの器が遠く中近東での工房で作られ、長い旅路を経て、また長い時間を経て、今ここにある奇跡にロマンを感じてしまいます。
::
今年の御物には、聖武天皇の身近にあった家具・調度類がまとまって出陳されています。
聖武天皇ご遺愛の肘つき↑は、細部に至るまで精巧精緻な技巧を凝らした美しさ。これは身体の前に置いて肘をついて使われたものだそうで、肘つきに付けられていたクッション↓も見ると、聖武天皇の寛いでいらっしゃる様子が目に浮かぶようです。

こちらは寝台である「御床」↑と、その上に敷いた畳の残欠↓
このような実際に身につけてらっしゃったものを拝見すると
千年以上も遠い昔が時空を越えてとても身近に感じます。

::
「藤原仲麻呂の乱」から1250年の今年は、藤原仲麻呂(恵美押勝)に関連した武器・武具などが多く出陳していますが、全文が仲麻呂の筆跡と言われる「東大寺封戸処分勅書」↓ も。
力強い右上がりの字に、自信に溢れた権力者の姿が彷彿されて、鑑賞した中でも、実はかなり印象が強かったです。

鑑真和上が唐より将来した唐経のうちの一つと言われている「四分律 巻第十八」。鑑真和上と一緒に海を渡ってきたお経というだけで、またちょっと萌えてしまうのでした。

::
天平文化の粋をゆっくり楽しむことができ、幸せな時間でした。
館外に出ると、もうオータムレイトの列も途切れていました。
オータムレイトチケットに付いてくる記念品の収集も7年分!
今年は「第7回正倉院展」ポスターの図案の栞です。(写真右下↑)
ちなみに、博物館の地下回廊では昭和22年から昭和63年までの「正倉院展ポスター」が展示されています。(見学無料)
こちらも是非ご覧下さい。ブログにもアップしています。→
最後に、正倉院宝物をデザインした記念切手も購入しました。

::
「天皇皇后両陛下傘寿記念 第66回 正倉院展」
会場:奈良国立博物館 東新館・西新館
会期:10/24〜11/12(会期中無休)
開館時間:午前9時~午後6時(金土日祝日午後7時まで)
入館は閉館の30分前まで
※11/12は天皇皇后両陛下の傘寿をお祝いし入館無料となります。


<<おまけの画像>>
こちらは、日本古来固有の赤である日本茜を中心に古代の染織技術を研究されている宮崎明子さんの作品。15年ぶりに出陳の「衲御礼履」の赤色を、同じように再現された赤革です。
奈良国立博物館向いの「飛鳥園」ギャラリーに展示されていますので、よろしければこちらもご覧下さいませ。