県立美術館では、これまでに継続して、奈良県安堵町出身の郷土の芸術家であり、日本近代陶芸の巨匠である富本憲吉の創作活動を幾度も紹介してこられました。
今回は5年ぶり、生誕130年を記念しての企画展。
県立美術館ホームページより>>
富本憲吉は出生の地である安堵を“うぶすな”と呼んでいました。“うぶすな”は「産土」とも書き、生まれた土地、自身のルーツを表す言葉です。作品に施された故郷の風景から生まれた多数の図案からも、富本憲吉の創作と“うぶすな”奈良・安堵の深い繋がりを感じ取ることが出来ます。
本展では、富本憲吉が「うぶすな」という言葉に込めた故郷への心情と、安堵というルーツにはじまる創作の歩みを通じて華開いた多種多様の華麗な美の精華を展観するとともに、富本の芸術と“うぶすな”安堵の関わりを紹介して、奈良の歴史と文化の魅力を発信する機会といたします。
5年前に鑑賞したブログ記事★に、故郷 安堵村の何気ない風景から、「竹林月夜」や「曲がる道」など情趣豊かな模様を生み出して昇華させていったエピソードなどを書いていますので、過去記事を参照していただくとして・・・・。
今回、唸るほどいいなぁと思ったのは、初期の白磁の作品。
朝鮮白磁の収集で名高い浅川伯教・巧兄弟から多大な影響を受けていた富本憲吉ならではの、これは本物の朝鮮白磁?と見紛うような面取花瓶(大正10年制作)。
その後、昭和7年、昭和33年制作の壺と、白磁の作品は、それほど多くはないのですが、どの作品も喉から手が出るほど「欲しい!」と思うものばかり。
この写真は「月刊大和路ならら」8月号の富本憲吉特集のページより、昭和7年制作の白磁の壺。このページの右上に書かれた文章を以下に転載させていただきます。
白磁八角壺。白磁は色や模様で失敗を補うことはできない。富本は作家が轆轤を廻すことに非常にこだわったが、白磁を仕上げる場合は、その段階で形をとことん吟味したという。柔らかな厚みを感じる白磁釉と、当時は驚きをもって迎えられた短頸の白磁壺は、究極の美を突き詰めようとした富本の美意識そのものだった。
いつか富本の白磁を中心にした作品展を企画していただきたいものです。
また、2012年5月に惜しまれながら閉館した「富本憲吉記念館」が、来年2017年1月に「うぶすなの郷 TOMIMOTO」として生まれ変わります。
こちらは、1日2組限定の宿泊施設や蔵を使ったバーやカフェ&レストラン、体験工房などを併設した施設になるということで、楽しみなことです。
※「富本憲吉記念館」を訪れた過去記事はこちら★
「富本憲吉 憧れのうぶすな」展
会場:奈良県立美術館
会期:8月5日(金)~9月25日(日)
休館日:月曜日(9/19は開館・9/20は休館)
開館時間:9時~17時(入館は閉館の30分前まで。)
◆8/12 13:00~
「絵付け教室」
講師:田中茂氏・坂手春美氏(安久波窯陶芸教室・安堵町)
費用:材料費500円/先着30名
◆8/13 8/20 9/3 9/10 14:00~
美術館学芸員によるギャラリートーク
◆8/14 8/28 14:00~
奈良マンドリンギター合奏団によるミュージアムコンサート
◆9/4 13:00~
「灯芯引き・芯巻き体験会」
講師:安堵町灯芯保存会・中川商店
費用:無料
◆9/11 14:00~
美術館学芸員による美術講座 「富本憲吉のうぶすな」
◆9/17 13:00~
「六斎念仏 東安堵の六斎念仏(奈良県指定無形文化財)」
講師:大寶寺六斎講(安堵町東安堵)
費用:無料
「ピアノ独奏コンサート」
演奏:渡里拓也 氏
◆会期中随時 体験イベント
「富本憲吉デザインを体験!オリジナルしおりを作ってみよう」
費用:無料
::
最後に「四弁花」文様の元となった定家葛の花。
かつて、正倉院の北側の塀沿いに咲いていました。
五弁の花びらからあの四弁花文様を創作されたこと、並みの凡人には思いつかないことと、いつも思うのです。
県美館蔵品が多く(初出品が10点あり)、富本ファンには見慣れたものがほとんどですが、それでも美しいものは美しい!と、文様や形、彩色に見惚れながらの展覧会でした。
暑い真夏の日中にこそ、お薦めの展覧会です。