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2019年4月18日木曜日

県美「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展

奈良県立美術館で開催中の「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展
館内の展示作品は撮影OK(但しフラッシュ撮影は不可)でしたので、ブログでもその写真を使って個人的な感想を綴りたいと思います。
ヨルク・シュマイサーさんの作品は、20年近く前に車木工房のギャラリーで拝見していたことがあり(その10年後の2010年に車木工房へ立ち寄って拝見させていただいたギャラリーのことはブログ過去記事を参照ください)、「奈良拾遣」の美術散華を持っていたり、2007年に奈良町のギャラリーたちばなさんで開催された版画展(過去記事)にもお邪魔したりと、そのお名前を懐かしく思い出す作家さんでした。
奥様が奈良県出身の方で奈良に深い縁のあったシュマイサーさん。
今回の作品展は2012年の逝去後の初の本格的な回顧展となり、初期から晩年までの代表作約180点を網羅し、作家の生涯とその軌跡をうかがい知ることができる大変見応えのある展覧会となっています。
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キーワードは「変化」
作家の底流をなすテーマ「変化」を軸に展覧会は構成されています。例えば、変容する人物を描く連作シリーズは、同じ版の上から重ねて新しい版を創り上げていくという銅版画の技法の特性を巧みに使ったもの。
初期の代表作「彼女は老いていく」シリーズ5連作の中の2作品↑↓
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その他に興味深く感じたのは木版画作品です。
木版画の技法を学びに日本の大学に留学したものの、大学には木版画科がなく職人たちから独学で学び、古事記など日本古来の物語を作品にしていきます。
銅版画とは全く違って、かなり土着的なイメージの作品群。
手法が違うだけで同じ作家の作品とは思えない印象を受けました。
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奥様が奈良県ご出身ということもあり、奈良とのご縁も深く東大寺シリーズだけでなく奈良の風景や法隆寺作品も素晴らしかったです。

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また、車木工房との繋がりについても写真展示がありました。
1977年、工房に銅版画部門を設立するにあたって、その技術指導者として招かれ、家族と共に奈良に移住し、その中で奈良をモチーフにした作品の数々を制作していかれるのですね。
東大寺の「釘隠し」↑や「賓頭盧尊者」↓など、独特の視点から観察した作品が面白いです。
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1階の展示室の作品群は圧巻でした。
その一つ、南極シリーズは、作家本人も南極を訪れて大きな衝撃を受けたそうで、その大きさを知る尺度がない氷山を表現したシリーズ作品が、今までとまた変わった表現で素晴らしいと思いました。

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「黒川能」を題材にした作品(以下の写真4点)も、洗練されて無駄がなく美しいと思いました。



真冬の山形で行われる「黒川能」を取材した作品は、大小さまざまに切り抜いた複数の銅版を組み合わせて刷られているそうで、この手法は旅の印象を多面的に描くために考えられたものだということです。
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そして、ドローイングや手彩色を加えることで刻々と変化する風景をとらえた「イルパラ海岸のかけら」。







「イルパラ海岸のかけら」連作シリーズはシュマイサーさんが最後の情熱を注いだ大作で、大変見応えのある作品でした。
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「ヨルク・シュマイサー 終わりなき旅」展
会場:奈良県立美術館(奈良市登大路町10-6 TEL0742-23-3968)
会期:2019年4月13日(土曜日)~6月2日(日曜日)
開館時間:9時00分~17時00分(入館は16時30分まで)
休館日:月曜日 ※4/29(月・祝)・5/6(月)は開館

イベント:会場は全て館内のレクチャールームにて
◇4/29 13:00~/15:00~(各回60分程度) 
ワークショップ「メディウムを使った凹版画体験」
講師:松井亜希子氏(版画家)・野嶋革氏(版画家)
定員:各回15人(当日受付) 

◇5/4 14:00~15:30
特別ギャラリートーク「シュマイサーの作品から見た南極」
講師:橋田元氏(国立極地研究所准教授) 
定員:80人

◇5/5 14:00~15:30
講演会 「シュマイサーと日本」 
講師:黒崎彰氏(版画家)
定員:80人

◇5/26 14:00~15:30
美術講座 「シュマイサーと奈良」 
講師:深谷聡氏(県立美術館主任学芸員)  
定員:80人

◇ギャラリートークは4/27(土)・5/18(土)・6/1(土)
各日14:00~15:00
会場:展示室 担当:県立美術館学芸員

◇ミュージアムコンサートはこちらで日時と出演者を参照ください。