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2014年3月16日日曜日

「奈良の旅人」エッセイ選考発表〜生駒あさみ賞

「奈良の旅人」エッセイ、本日は「奈良旅手帖」編集の生駒あさみさんが選んだ作品の発表です。(下段に生駒さんの講評を掲載しています)

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「尊敬する人物は?」       神奈川県 H.K.様

その問いに、私は子供の頃から「聖徳太子」と答えてきた。
今から約一五〇〇年前の飛鳥時代の政治家。十人の人の話を同時に聞くことが出来るなど、様々な伝説が残るスーパースター。そして、私が子供の頃の一万円札と五千円札の肖像画の人物だ。
だから中学時代、修学旅行で聖徳太子が活躍した奈良に行くことになった時は本当にうれしかった。特に、聖徳太子が創建した世界最古の木造建築である法隆寺。その法隆寺の『五重塔』や『金堂』、そして、聖徳太子を供養するために建てられた神秘的な雰囲気が漂う八角円堂の『夢殿』を見学するのが、子供心にも 楽しみでしかたなかった。
そしていざ出発の日。私は風邪をひいて三十九度近くの高熱を出してしまった。だが、私の気持ちはすでに奈良にあり、母親と担任の先生の反対を押し切って修学旅行に参加した。結局、奈良についても高熱のため観光には参加できず、楽しいはずの二泊三日の奈良観光はホテルの布団の中で過ごすこととなった。
その後、社会人となり、奈良へは仕事で何度か訪れた。その際、奈良市内にある東大寺や奈良公園、薬師寺などには行くことができたのだが、残念ながら、法隆寺がある斑鳩までは足を延ばすことが出来なかった。
それなら、観光で行けばいいのだが、家族の希望は北海道や沖縄、ディズニーランドなどばかりで、残念ながら、私の斑鳩、法隆寺への希望は後回しにされている。
聖徳太子ゆかりの地である斑鳩をのんびりと散策する。この私のささやかな夢。簡単に出来そうで、未だに叶わないでいる。しかし、もし実現した時のために、プランはすでに出来ている。
法隆寺駅を降りて、斑鳩の田園風景の中をのんびりと歩く。法隆寺へと続く松並木の参道はさらにのんびりと味わうように歩いていく。そして、心静かに境内に 入る。やはり『五重塔』、『金堂』『夢殿』は外せない。とは言っても、たぶん、隅々まで見てしまうはずだ。この中でも、聖徳太子等身の像と伝えられている 国宝救世観音像が安置されている夢殿はじっくりと拝観したい。
法隆寺を満喫した後は、藤ノ木古墳や法起寺、法輪寺、中宮寺などを巡る。本当であれば一人で行きたいところではあるが、妻がどうしても来たいというならば(絶対に来るというに決まっているが)連れて来てあげよう。
夜は、柿の葉寿司を食べながらお酒を飲む。そして、心は聖徳太子のいた飛鳥時代へ。定かではないが、聖徳太子もお酒を飲んだと言われている。そんなことを想いながら飲むお酒はきっと格別に違いない。

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<<生駒あさみさんの講評です>>

今回選考をさせていただいて、本当にありがとうございました。
書き手の皆様の奈良への愛溢れる文章にどっぷりと浸らせていただきました。 読んでる間、誇張ではなく本当に涙が止まりませんでした。
奈良って本当に本当に良いところで、みなさんそれぞれの奈良があって それぞれの愛し方で奈良を愛していて。 みなさんの文章からそのことを感じることができて、読んでいる間本当に幸せでした!
そして選考に当たり、再度読み返していたのですが、やはりどの作品も素晴らしいなあと・・・。
どの人も、自分が感じる奈良はこんなに素晴らしいんだよ!ということを伝えたいその気持ちがすごく伝わってきて、また泣いてました(笑)

どのような観点で選ばせて頂こうかと考えましたが 一番自分が共感できる作品に絞らせていただきました。
個人的なことですが2月末についに奈良に移住しました。 しかし住んでいても基本的には旅人でありたい、奈良へ憧れ続けていたいという思いがあります。
そんな、「憧れる気持ち」に共感した作品を選ばせていただきました。

「尊敬する人物は?」は、 何度か奈良に来ていても、まだ行ったことのない法隆寺にあこがれる思い・・・ どのようにめぐろうかと思いを馳せるこの作品が心に残りました。
旅の計画を立てるときから旅がはじまっていると思います。
その場所に行ったら…と期待に胸を膨らませている様子にはとても共感してわくわくしました。 法隆寺行きが実現したら憧れていた場所に行けた思いや、どんなふうに回ったかをぜひ聞かせてもらいたいです。

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H.K.様、「生駒あさみ」賞おめでとうございます。
明日は「倉橋みどり」賞の発表です。(続く)